小説

『REBOOTER / リブーター』結城紫雄(『変身』カフカ)

「ライターって魔改造人間だぞ。強いんだぞ。そんな奴に一般人が殴ったところでなんの影響があるんだよ」
 カズトはイライラを抑えながら尋ねた。
「テレビではどうやったら変身が解けたんだ?」「そりゃお前、敵の魔改造人間の攻撃とか」
 カズトは頭を抱えた。自分と同じような境遇の者がやすやすと見つかるわけがない。急募!ライターを殴打する簡単なお仕事です。採用条件・20歳以上の魔改造人間(未経験歓迎)サークル感覚で楽しく働くことができますよ!
「ヘルメットは脱げないのか」白石がカズトの頭を小突いた。今のカズトの頭部はバイクのメットのようにも見える。
「まったく脱げない。というより、どうやらこれも俺の頭そのものみたいなんだ」
「飯はどうしてんだ?」
「食えん。どうやらこの口はモノを食う機能はないらしいんだ。この体になってから食べてない。でも不思議と腹は減らないし、クソもでない。それ以前に今の体に肛門があるかどうかもわかんないんだけど、ちょっと見てくれないか」
 カズトは尻を突き出し白石は黙り込んだ。ベルトの風車のブーンという回転音だけが聞こえる。
 事態は何の進展も見せず、白石は汗とポテチのカスを散らして帰った。

 その夜。カズトはPCの前に座っていた。
「『発言コマネチ』にも載ってないな。グルグル先生は、と。『仮面ライター 戻り方』で検索……出ないか。自分でスレ立てるしかないな、『起きたら仮面ライターになってた』これでよし。お、早速レスがついてる。『氏ね』『ゆとり乙』『ゴルガムの仕業か!』」
 早くも万策つき、カズトは床に仰向けになった。そういえばこの姿になってから眼鏡をしていない(目が大きすぎてかけられないのだ)のに、天井の木目までくっきりと見える。横になっていると、階下から何か聞こえてくる。カズトは耳をすませた。
「聞いてあなた、今日カズくんが話しかけてくれたのよ」
 母親の話し声だ。我が家の床がこんなに薄いとは初めて知った。
「珍しいな」
 低いのは父親の声。カズトは思った。俺会話したっけ?
「ヤングジョンプと週刊ジョンプ間違えないようにって、心配してくれたし、優しいの」母の嬉しそうな声は久しぶりだ。そしてそれは会話じゃない。
「あんまり甘やかすとよくないぞ」
 手遅れだぞ、とカズトは忌々しく思う。誰のせいで俺がニートだと思っているのだ。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12