小説

『REBOOTER / リブーター』結城紫雄(『変身』カフカ)

 当初母はただの過労ということだったが、原因不明の眩暈が続き、寝たきりの状態が続いていた、というのが一昨日までであった。吐血という言葉に流石のカズトも慌てた。
「お医者さんもまだよくわからないって。今度精密検査するらしいんだけど」
 玲の目に涙が浮かんだ。
「癌、かもしれない、って言われた」
 カズトは呻いた。仮面ライターでも、それはどうしようも出来ない。
 翌日から毎日、玲と二人で母の見舞いに行くことになった。父のコートを羽織り、帽子にサングラス、マスクをつけて電車にのった。カズトは隣を歩く玲を見やる。仮面ライターになったばかりの時、久しぶりに見た妹はまぶしく、女子高生特有の健康的な色気をふりまき、小鹿のように溌剌とした手足を持っていた。が、今はどうだ。顔はげっそりと痩せ、髪は潤いを失い、明らかにやつれすぎていた。母の病気による心労だけでは説明のつかぬ変貌だとカズトは密かに思う。
 病床の母は、話すのもやったといった風でカズトの腕を掴み懇願した。
「カズくん、玲をお願いね。今のカズくんなら大丈夫よ、心配いらないわ」

 ある夜、病院から帰る電車の中でカズトのスマホが鳴った。
「どうした白石。今電車なんだ」
「緊急だ」白石の低い声が聞こえた。「電話じゃないと駄目だ」
「じゃあ手短に頼む」
「お前のベルトにプロペラついてるだろ。その赤い風車みてえな奴だ。それを今すぐ止めろ」
「ちょっとまてよ白石、いきなりどういうことだ」
「カズトお前、全然腹減らないって言ってたよな。今のお前のエネルギー源は、食べ物じゃなくてそのベルトだ」
「ああ風力発電な。玲から聞いたよ」
「違う。玲ちゃんが言ってたのは初期設定だ。その後やっぱり風力じゃパワーが弱いってことで……」電話の向こうで白石が咳込んだ。
「じゃあこのベルトは何なんだよ」
「ベルトで風を起こすとこまでは合ってる。その起こした風力をトリガーに、内蔵されたダイナモを起動させてエネルギーに変換している。ガキのころ読んでた『つよいぞ仮面ライターひみつだいずかん』が家から出てきたんで読んでみた」
「待て。難しくてよくわからん。つまりどういうことだ。エネルギーがベルトなら、それ止めたらマズいじゃねえか。死んじまう」
「お前には小型原子炉が内臓されている」

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