「呼ばせてるわけじゃねえ。中学校後半から引きこもって口聞いてなかったからさ、呼び方変える時機逃したんじゃないの」
「僕もにいにって呼ばれたい。そうだカズト、白石にいにって呼ぶよう玲ちゃんに言っといてくれよ、頼む!」
「頼む!じゃねえよマジ殺す。さっきからJKとかJCとかうっせーんだよお前は」カズトが大声を出した。それを聞いて白石がニタリと笑う。
「お前はさっきから殺す殺すうるせえよ。何だよ、高校いじめられて退学したこと忘れたのか?」
「言ったな。……よし、見せてやるよ」
カズトは引き出しからハサミを取り出すと、掌でそれを包んだ。そして再びゆっくりと手を開く。
「すげえ」白石がうなった。カズトの手のひらには金属の塊。ハサミが消しゴム大に圧縮されていたのだ。
「やろうと思えば車でも潰せるぜ」
「カズトさんパネェっす!しかしなんという才能の無駄遣い」
「なんという掌返し。俺も最初はびっくりしたよ。今は力をセーブできるけど」
「見た目だけじゃないってことか。風力発電といいその馬鹿力といい、中身まで全部すべてまるっとゴリッとエブリシング『仮面ライター』になっちまったみたいだな」
そういえば、とカズトは思った。視力と聴力の上昇もその影響かもしれない。
「それにしても」元ハサミの金属塊をもてあそびながら白石が言う。
「風力ってこんなに強いのか?」「わかんね」
白石は相変わらずニタリニタリしている。
数日後、週刊ウェンズデーを買ってきた母に、カズトは声をかけた。
「母さん、今日からメシはいらない」
一瞬、ドアの向こうで母親が体を硬くしたのがわかる。
「あー、自分で買おうかと思って。食費ぐらい自分で出さなきゃアレだしさ」
「でも、お金はどうするの」
いちいち鬱陶しい親だ。メシ代まで心配してきやがる。俺の同級生はもう働いて結婚してる奴もいるんだぞ。カズトは嘘をついた。
「最近バイト始めたんだ。黙っててワリぃ」
「すごいわカズくん。お仕事始めたのね」