白石が再び咳き込んだ。
「原子炉?」
「ベルトの風車はその起動スイッチだ」
「まさか」
「どういうことか、お前にも分かるだろ。お袋さん、放射能にやられてるぞ。それもお前のな。僕も親父の病院で精密検査を受けることにした。玲ちゃんも早く診てもらったほうがいい」
電車の中は満員だった。さまざまな臭気がまじりあった車内で、カズトは放射能が無臭であること、今この車内にもゆっくりと充満しつつあることを考えた。事態改善の一番手っ取り早い方策は、今すぐベルトの風車を止めて原子炉を止めることだった。カズトは暗鬱な表情を浮かべた妹の様子を見て、かつて美しかった彼女が、今では疲れ果てた老女のように変化しているのに気が付いた。降りなければならない場所にきた。彼女は座席から腰をあげ、よたよたと立ち上がった。そのさまはカズトの目に、彼女らの絶望と最悪の意図の確証のように映った。