「覚えてる?カエルのこと」
「カエル?」
「去年、パパのベッドにカエルのミイラが転がってたことがあったでしょ。パパが物凄い悲鳴あげて、びっくりしたママが勘違いして通報しちゃって」
「ああ」
父が照れくさそうに頬を掻く。
「そりゃもちろん覚えてるさ。ちょうど一年前か。しかしわからないものだよな。その時に駆けつけたお巡りさんがまさか、お前と、なんて」
「カエルのおかげだね」
「そうだな、カエルの縁結びだ」
そろそろです、と促されて、わたしと父は腕を組む。
「パパ」
「何だ?」
「ごめんね、ありがとう、パパのおかげだよ」
きょとんとした父に微笑み返して、わたしは前を向く。
――一晩だけでいいのです。あの方のベッドで眠らせてくれませんか。そうしたらわたくし、あなたのお願いごとを何でも叶えて差し上げますよ。
荘厳なオルガンの音色が響き渡り、大きな扉が開かれる。真っ赤なバージンロードの向こうで彼が待っている。
ゲコゲコ、と鳴く声を耳の奥に聞きながら、わたしは一歩を踏み出す。