小説

『カエルの婿』木江恭(『カエルの王様』)

「また朝帰りなんかして」
 母はぶつぶつ言いながら、それでも二日酔いのわたしに味噌汁を出してくれる。
「パパが心配してたわよ。最近の大学生はそういうものなのかって」
「そういうものって言っておいて」
「全くあんたは」
 頭が痛いし喉はガラガラ、しくしく痛む胃袋をひっくり返して洗いたい。わたしはあまりお酒に強いほうではなくて、こうなるたびにお酒なんてもう二度と飲まないって誓うのに、一週間も経たないうちに繰り返してしまう。
 だって断ったら二度と誘ってもらえないかもしれない。飲み会のメンツなんて、ノリが良くて断らないコなら誰だっていいんだから。
わたしはおぼつかない手つきで味噌汁を啜って、ほっと息をつく。
「美味しい……」
「夜までには元気になってね。パパが恵比寿のイタリアン予約してくれたんだから」
「え、今日何だっけ」
「忘れちゃったの」
 母は呆れ顔でわたしの向かいに座る。
「今日は久々にナナカが帰ってくる日でしょ」
「ああ」
 一年前に就職した姉は、第一志望の大手通信会社の内定を見事に勝ち取った。そこまではよかったのだが、どういうわけか縁もゆかりもない仙台に配属されてしまった。去年の夏あたりは毎週末帰ってきて一晩中母に愚痴っていたのが、そういえば最近は全然顔を合わせなくなった。わたしの夜遊びが増えたせいだと思っていたけれど、あっちはあっちで上手くやっているのだろう。
「え、でもパパ出張じゃなかったっけ」
「昨日帰ってきたの。だからまだ寝てる」
「へえ」
 ここ数年で急激に禿げ、ついでに体型もメタボになった父だが、仕事ではまだまだ若い者に負けじと頑張っているらしい。大人って大変だ。
「そういえば、昨日の夜パパを迎えに行く時にね、またカエル来てたわよ」
 ほうじ茶を一口飲んで、母がうふふと笑う。

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