小説

『カエルの婿』木江恭(『カエルの王様』)

 わたしだったら――そんな贅沢は言わない。自分だけを見てくれるならそれで十分だ。
「いいよ、わたしお嫁さんになるよ。だから、連れて行って」
 夢の中だけでいい、カエルのままでいい。
ナナカもリカもマサヤもいない世界に連れて行ってくれるなら、それで。
 カエルはしばらく鼻の穴をぴくぴくさせてから、うなだれた。
「お嬢さん、大変申し上げにくいのですが、わたくしには心に決めた方がいるのです」
「……え?」
 ちょっと待って。
 わたし、今、振られた?
「あれはあの方がまだ小学生の頃でありました。真っ白いランニングシャツに紺色の半ズボンがとてもお似合いで、すらりと伸びた御御足の美しさにわたくしは目を奪われました」
「え、え?」
「そのあと直ぐにあの方は引っ越してしまわれたのですが、何十年もしてこの町に戻っていらしたのを見つけた時は嬉しくて嬉しくて、まあそのショックでうっかり逝ってしまったんですが、なのでお恥ずかしいながらわたくし、もう死んでます。今はいわゆるゾンビです」
「え、ゾンビ、え?」
 何これ。わたしの夢だよね?ちっとも思い通りにならない。
どうして。夢の中まで現実は残酷、なんて。
「お嬢さん」
 わたしの絶望になど構いもせず、カエルはしゃっきりと背筋を伸ばした。
「残念ながらお嬢さんのお気持ちには答えられませんが、お力にはなりましょう。その代わり」
カエルは大きな目でわたしを覗き込む。
「わたくしのお願いごとも、叶えていただけますか」

 隣で父がそわそわと足踏みをしている。初めてというわけでもないのにすっかり緊張しているようだ。
「パパ」
「あ、ああ、大丈夫。ちゃんと練習したもんな」

1 2 3 4 5 6 7 8