小説

『桃井太郎と女たち』常田あさこ(『桃太郎』)

「桃井さんは『キャンディ・キャンディ』をご存じですか?」
 水戸さんの一言で、ピンときた。
「もしかして『いがらしゆみこ美術館』ですか? たしか娘が高校生の頃に、友達と行ってドレスで写真を撮ってきましたよ」
「結婚する可能性も低いことですし、ギリギリ若いうちに写真だけでも……と思いまして」
 水戸さんの言葉に、他のふたりもうなずく。
「いっそ、お見合い写真にしようかと」
「ウチは遺影にしようかな」
 岩佐さんのブラックジョークは、シュールすぎて笑えなかった。とはいえ、彼女は真顔だったので、ジョークではなく、あくまで本気なのかもしれない。
「それで、けっこう時間かかると思うんですけど、桃井さん、いかがなさいます?」
「行きます」
「いいんですか?」
「えぇ。『毒を食らわば皿まで』です」
「えっ?」
「それ、失言ですよ!」
「間違えました。言いたかったのは『乗りかかった船』でした」
「全然ちゃうやん!」
「さては、わざとですね?」
 数十分後、私の前に登場した彼女たちは、少女マンガから飛び出したような風貌をしていた。ボリュームのある金髪のウィッグに、フリルやレースを多用したドレス。
 もしかしたら笑ってしまうかもしれないという私の心配をよそに、お姫様に変身した彼女たちは、とてもとてもキレイだった。
 日本とは思えないセットで撮影した写真を、大切そうにバッグにしまうのを見て、女性の中には、いつまでも「お姫様に憧れる女の子」がいるのだな、と思った。

「我が生涯に一片の悔いなし!」
 美術館を出た直後、右手を高く突き上げて、水戸さんが、めずらしく大きな声を出した。
「いきなり何?」

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