小説

『桃井太郎と女たち』常田あさこ(『桃太郎』)

「安心してください。3人まとめてご馳走になろうなんて思ってませんから」

 楽しい時間ほど短く感じる。腕時計が8時を指したのを見て、私はワインをやめた。
「忘れないうちに……これ、おみやげです」
 きびだんごを取り出すと、彼女たちは目を輝かせた。
「ありがとうございます」
「わぁ、かわいいですね」
「大切に、いただきます」
 私が用意した、ささやかなプレゼントは、それぞれのバッグに収まった。
「ずっと気になってたんですけど、岩佐さんって、関西ですよね?」
「はい。兵庫です」
「桃井さん、ご存じなかったんですか?」
「そういえば、空井さんもイントネーション違いますよね?」
「岩手です。え、なまってます?」
「あぁ、だから色が白いんですね」
「それ、セクハラちゃいます?」
「えっ、いやぁ、そんなつもりは……でも、すみません……」
「桃井さんのこと、いじめないでください」
「はいはい、ごめんなさい」
「そういえば、みなさん同期ですか?」
「いえ、ウチが一番上で、空井さんが1つ下、水戸さんが2つ下です」
「年齢の話、やめましょうよ」
「女性に年齢を聞くのは野暮でしたね。以前お会いしたときから変わらず仲がよさそうだなと思って……」
「そういえば、我々、桃太郎ですね」
 しばらく黙っていた水戸さんが、口を開く。
「は? なんのこと?」
「桃井さんって、下のお名前は、たしか太郎さんでしたよね?」

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