「キレイだし、女性らしいし、実際、モテてますよね?」
「だから、やない?」
「どういう意味ですか?」
「ここ、縁切りもしてくれはるんやろ?」
背中がゾワッとした。
「別れる……というより、別れてもらえるんですかね?」
「どうやろね」
どうやらふたりは、空井さんの恋愛事情を知っているようだ。
「ワケアリなんですか?」
「えぇ、まぁ……」
今回は、セクハラだとは言われなかった。めずらしく黙りこんだ岩佐さんを見て、不倫だと直感する。もしかして、相手は社内の人間だろうか。
「みなさんには、きっと明るい未来が待っています」
「はい?」
「急に、何ですの?」
「いえ、なんとなく、思っただけです」
「桃井さんって、ときどき不思議ですよね。変わり者って言われません?」
「変わり者でもなきゃ、私たちに付き合ってくれませんよ」
「せやな!」
30分ほど経って、空井さんが神妙な面持ちで帰ってきた。神社でのことについては、何も聞かなかった。
通勤で乗りなれているはずの愛車がやけに広く感じられたのは、彼女たちが降りてしまったからだ。車内の温度まで下がったような気がする。
「食べたい駅弁があるんです」
そう言っていた空井さんは、無事に、お目当ての駅弁を買えただろうか。
「桃の形のお弁当箱に入っているらしいんですけど、ご存じですか?」
「あいにく普段は車で移動なので……」