「ああ、そのとおりだ。わしは三千代のことが、もう可愛くて可愛くてたまらん。あれにはかなりの金もつぎこんでおる。わしの他に別な男がいたならば、なんとしてでも別れさせる気でおる。三千代はわしひとりのもんだ絶対誰にも渡さんぞ!」
「わかりました。すぐ探偵に調べさせます」
すぐさま誠吾は探偵に三千代の身辺調査を依頼した。
実業家長井得は多くの愛人をかかえていた。そのなかでもこのところ三千代のことを一番可愛がっていた。
そう、長井得は代助の父親であり、誠吾は兄である。
さすが親子と言おうか、女性の好みが同じであった。代助は父親の愛人をディスコでナンパしてものにしたのである。結局三千代と代助の贅沢三昧は、実業家長井得の金力ですべて賄われていた。
それほど日をまたずして探偵から誠吾に調査結果が出たと連絡が入った。すぐさま誠吾は探偵事務所に足を運んだ。
ローテーブルを挟んでソファーに座り、二人向かい合う。最初に一枚の写真を見せ探偵が口をきった。
「こちらに写る男性ですが、もちろん誰だかご存知ですよね」
「ええ代助です、弟の代助です。大学を出てから就職も何もせず毎日遊びほけて困った弟ですよ。そのうち何か始めるだろうって、毎月けっこうな額の金を渡してるんだから、おやじもまったく甘いもんです。で、その代助が何か?」
「依頼の平岡三千代さんと、代助さん交際しているようでして・・・こちらが証拠の写真です」と探偵は、数枚の写真を鞄から取りだしテーブルに並べた。
「どうやらディスコで知り合って仲良くなったようです」
「ディスコで・・・」
「ええ、こちらのディスコで」
そう言って探偵が指差した写真には、代助と三千代がチークタイムにぴったり体を寄せ合い踊る姿が収められていた。他にも夜マンションのエントランスでキスしている写真、二人手を繋ぎホテルへ入ってゆく写真、車中抱き合う写真、などどれもじゅうぶんに交際の証拠となるものだった。
それらを見て誠吾は、ちょっとまずいな、どうしたもんだ? と、困った顔をして暫し黙った。それからつぶやくように、
「おやじはまだ調査結果が出たこと知らないよな」と、ひとり言った。そして次に、探偵に向かい言った。
「すいませんがまだ調査続行中ということにしておいてください。わたしが代助に直接会っていろいろ話をしてみます。代助が素直に三千代さんから手を引いてくれたならば、まことに勝手な話ですが、事実を隠ぺいしていただく事になると思います。またこちらから連絡いたしますので、それまではまだ調査中ということで、なにとぞお願いします」
「そうですね、了解しました。わたしもそのほうが良いかと」