「あ、ひとり、そう、僕もひとりなんだ。なんだか僕たち気が合いそうだね」
「あらそう。ウフフ・・・」
代助は自分の今晩占有するVIPルームに女を招くことに成功した。すると女が言う。
「あら、ここもいいけれど。よかったらわたしのエクストラVIPルームのほうに来ない?」
「えっ! エクストラ! あのエクストラかい? 」
「ええエクストラVIPよ」
女は代助のふんぞり返るVIPルームよりさらに上の、エクストラVIPルームをひとり陣取っていた。代助はちょいと冷汗をながして女に尋ねた。
「いったい君は? どこかお金持ちのお嬢様とか、それとも・・・・何者なんだい? 」
「それは、ひ、み、つ・・・」と、女はウインクしてみせた。
女は名前を三千代と言った。代助の乗るBMWのM3に対して、三千代は格段上のベンツSクラスのAMGに自動車電話を装備し乗っていた。代助の手首にはロレックスのサブマリーナがまかれ針を動かしていたが、三千代の手首ではゴールドに光るパテックフィリップが時を優雅に刻んでいた。二人ともに高級ブランドのスーツで身を固めていた。サイダーの栓を抜くように、高級シャンパンのコルクを平気で抜いた。ま、兎も角も互いにリッチであった。そして二人のリッチの影には、共通するある男の存在があった。
この晩三千代をホテルか自分の部屋へお持ち帰りしようとナンパした代助であったが、結局逆に代助が三千代の運転するベンツの後をBMWでついて行き、彼女の住まう高級マンションへと持ち帰られる形となった。
二人は代助が軽口で言ったように、妙に気が合い、この晩以来ちょくちょく会うようになった。しかし代助は、三千代が何をして生計を立てているのか、どんな素性なのか、まったく知ることなかった。また三千代も代助の素性をとくに尋ねることなく、彼も自分から彼女に話すことなかった。が、三千代のほうは少しして、ふたりの間に横たわる事実に感づいた。そして驚いた。されど、それを代助に話すことはしなかった。
とある企業が建てた高層ビルの一室である。
「おい誠吾、どうもここのところ三千代からわしと別の男の匂いがする。気になるんでちょっとおまえ、探偵を雇ってそこのところ調べてくれんか」
「お父さん、三千代さんと言えばお父さんの今一番お気に入りの若い女性ですよね」