毅然とした声で言うと、男は瞼の垂れたどんよりとした目を私へ向けた。睨みつけているつもりかもしれないが、ただ面倒な人、という印象しか抱かなかった。
「あんた母親かい?」
「違いますが、ショップの責任者です。この子に何のご用ですか?」
「いや、この子がね、学校にいってないっていうから。中学までは義務教育でしょう。だから、小学校を卒業したらうちのスクールに……」と言ってパンフレットを取り出して、三つ折りらしい細長いそれをペラペラと揺らした。
その中にかかれている内容は説明されなくてもなんとなくわかった。この手の輩を、決してまつながくんに近づけてはいけない。
私はパンフレットを取り上げるように受け取ると、裏面をみた。やはり思った通りのことが書いてある。都合のいい、耳障りのいい、嘘ばかりの文句。
「二度とこの子に声をかけないでください。今度あなたを見たら、警察に連絡します」
きっぱりとそう言って、スマホを突きつけた。
黄色のジャケットの男は舌打ちをして、ポケットに手を突っ込むと肩をいからせながら去っていった。さながら喧嘩に負けた惨めな下っ端ヤクザといった風情か。
私は膝をついて、まつながくんの目をのぞき込んだ。
「大丈夫だった?」
「うん。だいじょうぶ……」
か細い声は、とても怖かった、そう訴えていた。本当に、子供から一瞬でも目が離せないこの世界。まったく、あきれるにもほどがある。
「今度ああいう人がきたら、周りの大人の人にいって警察を呼んでもらうのよ。大丈夫、怖くないから。みんな助けてくれるからね」
頼りない肩を繰り返し撫でているうちに、彼は安心したようだった。
ほっとしたところでまだ熱々のたこ焼きを差し出して、二人で食べた。彼はたこ焼きを食べるのがはじめてだった。だから中が熱いのを知らずに一気に一個を口に放り込んで、熱さにはふはふと息を吐いていた。私はなんだがほっとして、その様子を眺めていた。
彼は少しずつだけれど、前進している。成長している。大丈夫、きっと大丈夫だ。
でもそれは、大きな思い上がりだった。
しばらくして、珍しく彼の母親から電話があった。