小説

『A Boy Behind the Shutter』植木天洋(『オリバー・ツイスト』)

 中古のぬいぐるみはあえて箱にまとめて入れて、掘り出し物っぽく演出する、新品の電化製品はそれだけを集めてコーナーをつくり、箱付きとなしをわけて値段も多少調整する。そうするだけでも、あっという間に商品の陳列にメリハリがついてくる。
 ぬいぐるみを入れ終えたまつながくんには、次に腕時計やストップウォッチや電池など、細かい電化製品を集めるのをお願いした。それをきちんとコーナーを作って、並べていく。
 彼は少しのろのろとしていたけれどしっかりと自分の役目を果たして、最後のひとつの万歩計を丁寧な手つきで片隅においた。
「できたね。頑張った」
 私が頭を撫でようと手を上げると、彼はビクリと震えて身を縮こまらせた。私ははっとして、手をおろして、笑った。
「売れるといいね」
 彼は何も言わず、ただうなずくように頭を下げただけだった。
「何か困ったことがあったら声をかけてね」
 私はそれだけ言ってブースから離れた。目の端で見ていると、彼は以前と同じように膝を抱えて座って、膝を抱えた。それでもさっそく中年男女が足をとめて商品を物色しはじめたので、ひとまず安心した。
 しかし、心配もあった。さっき私が手を上げた時の彼のあの反応には心当たりがある。大人が手を上げたら、次に何が起きるか知っている――いや、思い知らされている――子供の反応だ。
 なにか良くないことが彼の身に起きている。それは一つの確信だった。半袖半ズボンの肌のどこにもそれらしい痕跡はないけれど、布地で隠れている部分はわからない。極端に痩せたりはしていないけれど顔色は悪く、何より気にかかったのは無表情なところだ。まるで魂や感情がすっぽり抜け落ちたように、彼は抜け殻だった。

 その日からしばらく経って、結局私はまつながくんのことが気になってしまい、フリマを主催していた女性を友人づてに探して連絡をつけた。
 彼女はまつながくんの連絡先を開かすことをしぶっていた――当然のことだろう――が、見過ごすことが出来ない可能性がある、しかも悪いことが起きているかもしれない、と説得すると、紹介してくれた友人の口添えもあり、なんとか住所を教えてもらえた。
 次の日、私は住所と地図をメモした紙を握りしめて、家へ向かった。こんなおせっかいをするなんて初めてのことで、私は緊張に足が震えていた。
 そこは閑散としたシャッター街で、いわゆる個人商店が続くアーケードの成れの果てだった。営業している様子はない。人の気配もなく、昼間だというのに異様な空気が漂っていた。

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