鐘を鳴らしながら店員が叫ぶ。別の店員は、色とりどりの紙吹雪を百瀬達にふりかける。
百瀬一行は見事、5000gの肉を平らげた。
「じゃあ、記念に一枚、撮りましょう」
店員がインスタントカメラで、四人の写真を撮った。
そして、この日最初で最後の「鬼退治」を成功させた勇者達の写真は、レジ横の壁に貼られることになった。
店を出、ぽっこりお腹を押さえながら母親が、
「こんなに食べたのは、何十年振りかしら」
と言った。
「僕もお腹一杯だあ」
犬介は満足そうな笑顔。
「そうね。今日は夕ご飯はいらないわね」
「いや、明日の昼ぐらいまではいらんじゃろ」
老人が言うと、母親と犬介は一斉に笑った。百瀬は喉元まで胃液が込み上げてきて、会話に参加できなかった。
「今日は本当にありがとうございました。洗濯物は洗っていつか返しますね」
母親は犬介を連れて、河川敷とは逆方向に消えていった。
「じゃあ、わしらは草刈りを再開じゃな」
親子の姿が見えなくなると、老人が百瀬の肩を叩いた。百瀬は驚きの目で、老人を見た。百瀬はそんなことは、すっかり忘れていた。陽は傾き暑さは少し和らいだが、まだまだ草刈りには過酷な環境だ。
「また、来週にしませんか?」
百瀬はなんとか言葉を絞り出す。
「いやいや。善は急げ、というじゃろ」
老人の意思は硬い。今更、逃げることはできない。百瀬はゆっくりと河川敷へと歩き出した。彼の戦いは、まだまだ続くのだった。