小説

『桃太郎外伝 なよ竹のかぐや姫』長月竜胆(『桃太郎』『竹取物語』)

「あなたは一体……」
 驚く桃太郎を尻目に、かぐや姫は窓から空を見上げた。
「……もうじき満月ですね」
 そして、おもむろに告げる。
「満月が来れば、私は故郷の月へ帰らなければなりません」
「故郷……つまり、あなたは月から来たと?」
「はい。故あって地上に落とされました。しかし……それがどんな意味を持つとしても、ここで過ごした時間は、私にとってかけがえのないものになりました。だから、寂しさを覚えるのです」
 桃太郎が返す言葉に迷っていると、突然、戸の向こうから翁の声がした。
「桃太郎殿、申し訳ありません。実は、かぐやのことで御門の使者がお見えになりまして、突然ではありますが、今日のところは……」
 結局、かける言葉も探していた答えも、何一つ見つけられないまま、桃太郎はその場を後にするしかなかった。
「桃太郎様、お役に立てず申し訳ありませんでした。あなたの探し物が見つかるといいですね」
 去り際に、かぐや姫はそう言いながら精一杯の笑顔を見せる。桃太郎にとってそれは、とても心を締め付けられるものだった。
「それで、どうだった? やはり同じように悩んでいたかね」
 屋敷の前の茶屋で、次郎は団子を頬張りながら、桃太郎に尋ねる。
「……いや、真逆だったよ。彼女は自分の正体を知り、そのことで悩んでいた。故郷の月へ帰らなければならないんだってさ……」
「そうか。かぐや姫は月からやってきたのだな」
「驚かないのか?」
「月には俺も思うところがあってな。特に満月になると、無性に遠吠えをあげたくなるのだ。それは狼の血によるものかもしれんと思っていたが、あるいは郷愁に駆られてのことかもしれん。俺にとっても月は故郷なのかもなぁ」
「……次郎、何を言っているのかよく分からないよ」
 呆れたように言う桃太郎の横を、見慣れない恰好の集団が通り抜ける。明らかに町人や旅人とは違う、武装した人間達が次々と屋敷の前に集まっていた。

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