小説

『Boxes 』吉田大介(『浦島太郎』)

ツギクルバナー

 圭太が会計を済ませると、ママがコートを持ってきて着せてくれた。12月、銀座の街はクリスマスムード一色で、こうして一人でクラブに飲みに来る圭太は35歳としてはかなり淋しい身だ。銀座のクラブといっても決して高級な店ではなく、以前仕事の関係で連れていかれた、上司曰く「銀座にしてはそんなに高くないよ」というレベルで、圭太としては十分だった。
 ママはチンケなクリスマスツリーが飾られた出口まで圭太を見送りに来た。
「今日はね、来てくださった方にプレゼントがあるの」
 圭太は少し得した気分となって、ママに照れ笑いを見せる。クリスマスシーズンに一人で店に来ている自分を恥ずかしんで。
「今月からウチは竜宮城になったのよ。山田さんちょっとこっちへ来て」
 意味の分からないギャグを挟みながらママが圭太をクロークのようなエリアに案内する。
その小部屋には壁一面、天井までの棚があり、趣味の悪いきらびやかな小箱がたくさん並んでいた。大きさは宝石箱ほど。ピンクやら緑、赤、青、ただし全部スパンコールみたいな装飾が施されており、それが百以上はあるように見える。
「玉手箱なんですけど、どれかお一つお持ち帰りください」
 満面の笑みでママが棚を指す。
「玉手箱って。お菓子とかハンカチとか入ってるの?」
「いいえ、おじいさんになっちゃう煙が入ってたりするの。何といってもウチのお店、今月から竜宮城になったんですから」
 センスがない店だなと、圭太はちょっとひき気味になりながらも、適当に棚の真ん中あたりにある緑色の箱を指し示した。
 ママはその箱を棚から取ると、そっと目の高さに持ち上げ、箱の下部に貼ってある説明書きを読む。
「あ、これはオーソドックスだわ。おばあちゃんになる玉手箱ね」
 くだらない催しだと圭太は思いつつ、
「おばちゃん好みの香水が入ってるとか?まあ、それでいいよ」
と手を伸ばす。
「待って、待って、いろいろあるのよ。ちゃんと選んで」
 声のトーンを上げたママにいい加減にうなづきながら、圭太は腕時計を見た。終電まではまだ20分以上ある。
「じゃあ、ママがお勧めのは?」
 するとママは考えもせず手近にある青い箱を取り、説明書きを読む。

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