「パナマ人になる箱だって」
自分で言って笑いながら、ママはそれを圭太に渡そうとした。圭太も「パナマ人」というのが微妙で、ちょっとウケ、もう少しいろいろ見てみたくなった。
「ちょっと意外に面白いんじゃない?誰が考えたの?」
「だからウチは今月から指定店になったのよ、竜宮城の。だからそっち方面から送られてきたの。置いてくださいって」
「いやママ、それ意味分かんないけど。じゃあ俺に合うやつ探してよ」
ママは5つほどまとめて棚から取ってくると箱に貼ってあるシールを調べ始めた。
「深海魚になる箱、顔がトマトになる箱、覆面レスラーになる箱、おっさんが一度しゃぶったスルメを食べさせられた女子大生になる箱・・・」
「ちょっと、ウケないなそれは。宴会芸用のマスクでも入ってるのかな」
「違うのよ。本物なのよ、この玉手箱は。こないだウチのコが一人『馬になる箱』を開けたらホントに馬になっちゃったのよ。お客さんのだから勝手に開けないでねって言ってたのに」
「ああ、さっき接客してた中にこんな長ーい馬面の女の子一人ひとりいたね」
圭太が思い出し、ついそんなことを言ってしまうと、
「あのコはもともとああいう顔なの。山田さんも失礼ね」
笑いながらもママは眉毛をゆがめて、すぐに真剣な眼差しとなった。
「ママ、わかったよちゃんと選ぶよ」
圭太が苦笑いをすると、
「それからね、私もうママじゃないの。乙姫なの。早くひとつ選んでちょうだい」
ママの顔から笑みが消えた。
圭太は何でもいいやと思いながらも、友達への話題にしたい気持ちもあり、少しでも変わったものをと考えていたため、せかされて焦った。
「珍しいやつがいい。凝ってる趣向の」
そこへママは新しい箱を2つ取り出してきた。
「これなんかどう?典型的な玉手箱だけど、上半身だけ老人になる箱、こっちが下半身だけ老人になる箱。二者選択のお勧め品よ」
「おお、なかなか考えたね、それは。ネタ的に面白いじゃん」