小説

『桃太郎外伝 なよ竹のかぐや姫』長月竜胆(『桃太郎』『竹取物語』)

「しかし、黄金とかぐや姫に関係があるとしたら、かぐや姫とは一体何者なんだろう。ひょっとして、どこか高貴な家のご落胤とか……」
「まあ、会ってみないことにはな。というか、一体どうやって会うんだ? これは、いきなり訪ねても門前払いにされるのがオチだぞ」
「その辺のことは考えてあるよ。せっかく手に入れたものを使わない手はないさ」
 桃太郎は自信有り気な様子。何をするつもりなのか、と次郎が興味深そうに見つめていると、桃太郎はそのまま堂々と屋敷へ近付き、普通に正面の門を叩いた。
 その数分後、桃太郎と次郎は、あっさり屋敷の中へ通されていた。二人揃って行儀よく座り、静かに待っていると、ドタバタと足音が聞こえてくる。慌てた様子で顔を出したのは、屋敷の主、竹取の翁その人だった。
「おお。これは、お目にかかれて光栄です。あなたがかの有名な桃太郎殿。ご武勇の程はこの町にも広く伝わっております。それに私としては、桃から生まれたという話も他人事には思えないもので」
 翁はひどく興奮した様子だった。今や桃太郎は時の人なのである。それに、やはり翁としても、かぐや姫と似た桃太郎の出自について、興味を抱いているようだった。これは桃太郎にとっても好都合。ここぞとばかりに一歩踏み込む。
「他人事に思えないというのは、ご息女のことですね。なよ竹のかぐや姫。実は、本日伺ったのは他でもありません。私としても、似たような境遇の者がいるというのは大変興味深く、できればお目にかかりたいと思いまして」
「そうでございましたか。それはこちらとしてもありがたいことです。娘はこのところ塞ぎ込んでおりまして、桃太郎殿と話ができれば良い気晴らしになるでしょう」
 翁に連れられて、桃太郎と次郎は、かぐや姫のいる離れへと案内された。次郎を外に待たせて、桃太郎が部屋へ入ると、待っていた美しい少女は礼儀正しく頭を下げる。
「桃太郎様、わざわざ遠方よりお越しいただき、ありがとうございます」
 顔を上げた少女は柔らかく微笑むが、その表情にはどこか陰があった。
「いえ、こちらこそ突然押しかけてしまい、申し訳ありません」
 簡単な挨拶を済ませ、向かい合って座る二人。少しの間、気まずい沈黙が流れた。いざ対面してみると、どう切り出したものか分からない。どうしようもなく言葉を失った桃太郎は、思い切って単刀直入に尋ねた。
「……あなたは竹から生まれたとか?」
「はい、そのように聞いています」

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