小説

『桃太郎外伝 なよ竹のかぐや姫』長月竜胆(『桃太郎』『竹取物語』)

「……次郎、お前は犬だよ」
「そうかなぁ?」
 おどけた調子で言うと、次郎はまた地べたにゴロンと寝転がる。どこまでが本気なのかは誰にも分からない。それが次郎なのである。
 そんな面倒臭い犬、次郎であるが、ふいに、「そういえば……」と思い出したように言った。
「さっき旅の商人から聞いたのだが、都には竹から生まれたかぐや姫というのがいるらしいぞ」
「竹から生まれた? その話、本当なのかい?」
「無論、商人から聞いたというのは本当だ。だが、商人の話が本当かは分からん。巷では有名な話らしいがね」
「竹から生まれた……か」
「興味を持ったか?」
「まあね。竹から生まれたという話を信じるわけじゃない。ただ、境遇は同じなのかなって。もしかしたら、彼女も同じように悩んでいるかも……」
 やり場のない感情を持て余していた桃太郎にとって、かぐや姫の存在は一筋の光明だった。晴れないその気持ちに、何か区切りをつけられるかもしれない。そんな桃太郎の思いを察してか、次郎も桃太郎の背中を押すように言う。
「ならば、確かめに行くしかあるまい。俺も付き合うぞ。退屈していたところだ」
「うん……そうだね。行こうか、都へ」
 こうして、二人の新たな冒険が幕を開けた。
 二日以上もかけて歩き続け、桃太郎と次郎はようやく都へ辿り着く。しかし、それからはすぐだった。噂通り、都でかぐや姫のことを知らぬ者はいないし、住んでいるという家も、ひと際目立つ大きな屋敷。一目見ようと立ち寄る者も多く、観光地さながらに人も集まっていた。
「おお、立派な屋敷だ。うちよりもずっと大きいな」
 次郎は辿り着いた屋敷を見上げながら呟く。
「ここへ来るまでにいくらか話を聞いたけど、竹の中から見つかったのは、どうやらかぐや姫だけではないらしい。山のような黄金も出てきたそうだよ」
「何だと? こっちは鬼と死ぬ気で戦い、ようやく宝を得たというのに、何の苦労もなくこんな屋敷が建ったのか。世の中不公平だなぁ。俺の犬小屋の何十倍、いや何百倍の大きさだぞ……」
 屋敷に向かってうなり始めた次郎を、まあまあと制しながら、桃太郎は話を本題へ戻す。

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