小説

『T-box』吉田大介(『浦島太郎』)

「おもしれえ」と太郎、ドロップに入り自分も有頂天で歌いだす。
 半狂乱で30分もDJをしているとさすがに疲れ、確かに和銅八年生まれには少々きつい動き、座る場所はないかと辺りを見回すと、あったDJブースの隅、パイプ椅子。ちょっとだけいいだろうと思い腰かけたとたん・・・
 あーっと、会場にドライアイスを焚くスモークマシンから大量の煙!
「次、来たなこりゃ」太郎もだんだん流れがわかってきた。

 もあもあもあもあ。「ああ、そういえばずっと何も飲んでねえな、のど乾いたぁ」
 つぶつぶの蛍の白い光が太郎を包みだす。「何でもいいやもう、どこだ次は」

「ほら、水だ」
 目の前にコップが置かれた。
「こらあぁ、ターンテーブルの上に水を置くなーっ!」と太郎は怒鳴ろうとしたが、どうせもうDJブースじゃないんだろうなここはと、察しは早く、しかし何時間座っていたのかケツが痛い。
「おい、かつ丼でも食うか」と目の前の男。
 机ひとつの狭い部屋に相手と差し向いに座らされており、
「吐いたらどうなんだ。楽になるぞ。田舎の両親も心配してるだろう」
 男は背広を着てネクタイをしていたが、さっきの川崎ではないようだ。後ろの窓を振り返るとすでに夕暮れ、知らない景色、妙に淋しくなる太郎。
 かつ丼が部屋に運ばれてきて、太郎の前に置かれた。
「ご両親を殺ったのはお前だろう」
 男が言った。
「ち、違う!俺が帰ってきたらすでに死んでいたんだ。誤解だ」
 太郎はそう言っておいた方がいいような気がしてそう言った。何の事件に巻き込まれているのか全く分からない。
「まあ、腹減ったろう、食え」
 男に促され、太郎はかつ丼のふたを開け・・・ようとしたが、
「おっと、だまされねえぞ。これを開けたら煙が出てきて、蛍の光、もあもあもあ、となってアレだろ」
 太郎がまくしたてた。よく気づいた自分、よくぞ学習した、オレ。しかし、
「アレってなんだよ」
 と男、

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