じっとり熱い部屋の中で亀山啓吾はむうと口を結んだまま座り天井の一点を見つめていた。
狭い部屋の中、ストーブの炎に照らされて、てらてら顔が赤い。
「見ておれ、兎田俊介」
天井の木目を睨み、そう言ったかとおもうとパソコンを立ち上げ、猛烈な勢いで打ち始めた。
ぺし!
エンターキーを踊るような手つきで押すと、傍らのプリンターから紙が吐き出される。
果たし状
ジーダラダラジーダララ……打ち出される文字を見ながら亀山啓吾は立ちあがる。
「よし!やるぞ」
ふうと封筒に息を吹き込み、三つ折りにした紙を入れる。
「負けるわけにはいかない」
くせのつよいぴんぴん立った髪の毛、あるものを着ていますという感じのジャージの上下姿で握りこぶしを突き上げる。
今度こそ、今度こそ、今度こそ。
ランニングシューズの紐を結び直し、亀山啓吾は今日も闇の中をひた走る。雨の日も風の強い日も日課のトレーニングをさぼったことはない。
亀山啓吾が兎田俊介に挑むにはわけがあった。
しかし、亀山啓吾など眼中にない兎田俊介は渡された果たし状を見て首をひねった。
「何ですか、これ」
「見たらわかるだろうが」
「果たし状、って書いてありますけど」
「中を見ろ、中を」
兎田俊介は百八十二センチある身長で自分の肩ほどの身長背で亀山啓吾を見下ろした。
「僕、何かしましたっけ?」
「はあ?」