「あらあ、ずいぶん痩せちゃったね。ダイエットしなくていいなんて羨ましいよ」
若い女は妻の隣に立ち、そう言い放つ。何て人なの!妻が睨むと、
「なによ。あたしのこと言えないでしょ。赤ちゃん、殺したんだから」
殺す?私が?赤ちゃん?子供はいないのに?
「生まれる前に殺しちゃったからね」
妻は分からず、若い女を見やる。
「覚えてないの?だんなさん、可哀想。あれだけ気を付けるようにって言っていたのに」
夫が可哀想?気を付ける?何を言ってるのかしら。この人、何も知らないからそんなこというのよ。いつもないがしろにされているのは私。我慢しているのも私。
「そうかしら?」
若い女は妻の心の声が聞こえるかのように問う。妻はゾワゾワし始めた。
赤い靴が妻の周りをくるくる回っている。
「やめて!あっちへ行ってよ!」
「無理よ。あなたの足なんだから」
「何言ってるの!私の足じゃないわ。私の足はここに……!」
自分の足を見て驚愕した。ないのだ。くるぶしでざっくり斬り落とされている。妻の断末魔に、若い女は失笑する。
「斬ってって頼んだのは、あなたじゃない」
赤い靴は二人の周りを楽しそうに軽やかに回転する。
「これは私の足なんかじゃない!赤い靴なんて知らない!私の足を返して!!!返してよ!!!」
「あなたの足よ!よく見なさい!」
若い女に頭を掴まれ、無理やり赤い靴を見せられた。軽やかにくるくる回転する赤い靴を見つめていると三年前に戻された――母親の葬式に出るための喪服と黒い靴を買いに夫とデパートへ行った時に――。
「これに決めたわ!」
妻が真っ赤なエナメルのハイヒールを手にすると、夫がため息をつき、
「葬式に赤い靴なんて履いて行けるわけないだろう」
「私を棄てた人よ。出るだけでも褒めてもらわなきゃ」