「おおきなももが、どんぶらこ、どんぶらこ、と流れてきました」
桜は、実のようなつぼみを風船を膨らませるように、暖かさを吸い込んでいた。
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ぼくは部屋にある大きな鏡の前に立っていた。ネットで買った9YTの洋服を試着しながら。少し小さいけど、それがピタッと身体の線が出ていい感じ。出かけるつもりは、ないけれど。
ちょっと幸せな気分を感じていると、鏡の中で青緑色のみかんは、誇らしげに存在感を示す。そして完ぺきに着飾ったワタシに言う。
「ちがうわ」
女の声なのか、よく分からない。
恐る恐る鏡の中の自分を再び見た。ワタシは唾を飲みこみ、その存在を意識した。そして、絶望の淵に追いやられた。
13
清森夫妻は今夜も教会にいた。
讃美歌312番を歌い終え、椅子に座ると、牧師が静かな声で言った。
「新約聖書45ページ、マタイによる福音書第26章47節……そして、イエスがまだ話しておられるうちに、そこに、十二弟子のひとりのユダがきた。……そのとき、弟子たちは皆イエスを見捨てて逃げ去った」
牧師はユダの裏切り、それすらをお許しになる神の子イエスのお話しをされた。少し風があるのだろう。教会の敷地に植えられている柊の葉が擦れる音が聞こえる。