小説

『新生アリス計画』ちまき(『不思議の国のアリス』)

 それでも愛の戦士ハートの女王は怯まない。
 彼女の背には負の怪物扱いの末、惨たらしい扱いを受けた者達の無念の嘆きがある。それらを力に、翼に変え、ハートの女王は飛んだ。
「今こそ、夢世界を腐敗させる負の怪物を滅する時!
くらいなさい!
ラブハート・アターック!!!」
「な、何だこの光は…、ギャァアアアアア!!」
 ハートの女王の掌から放たれた、眩い薔薇色の光。魔王アリスは防ぐ術なく、断末魔の叫びを上げながら浄化される。
 光は魔王アリスの神殿だけに止まらず、夢世界全体に広がり、夢世界を本来の姿へと戻していった。
 こうして、魔王アリスの脅威は去ったのであった。 
 ありがとう、ハートの女王!
 君こそ世界の救世主。真の主人公だ!
 めでたし、めでたし。

◆ ◆ ◆

「て、夢を見たのよ!」
 そう言って、ハートの女王は意気揚々に語り終えた。
 その姿は10代の愛の戦士ではない。派手なドレスと装飾品で着飾って実年齢を厚化粧で隠した、誰もがイメージする傲慢な支配者『ハートの女王』だ。
 円卓の上座で1人だけゴージャスな椅子に座る女王と、それを囲むよう集まっていた『不思議の国のアリス』のお馴染みキャラクター達。白ウサギは勿論、負の怪物扱いされていたチェシャ猫に帽子屋、三日月ウサギ、侯爵夫人、ドードー鳥やトランプ達もいる。
 女王の隣にはアリスの姿。しかし冒頭からの不機嫌顔や魔王キャラでの邪悪顔はドコへ行ったのやら、破り捨てたはずのいつものアリススタイルであるエプロンドレスで、ニコニコと可愛らしい笑顔で女王の話を黙って聞いていた。
 笑顔なのはアリスだけで、その他の表情は冷ややかなモノだった。しかし気にするつもりがないのか単に気付いていないのか、女王は身を乗り出して自信ありげに尋ねた。

1 2 3 4 5 6 7