女性が数人ばらばらと出てきて、こぼれた豆を拾う。
「お婆さんの態度は極めて活々(いきいき)としてゐて気味が好い。》
「福は内、鬼は外!」
なんで。
「福は内」が、先なんだよ。
え、鴎外先生。
普通は、まず、鬼を追い出すだろ。
なにか理由でも?
無意識?
意識して?
たまたま?
聞かせてよ、鴎外先生。
と、男は思った。
ある、もの書きは、言った。
自分の、心の形に合うように、物語を作っているんだ、と。
意識せずに。
直面した、非常に困難な現実。
そんな事態の時とかに、だと言う。
いやいや、意識しても、だよ。
と、男は思った。
人の、無限に多様な、行動や経験、そしてエピソード。
それらの、隠蔽の中から、己が、顔を出す。
残りの大半は、語られずに。
だから、常に、語りなおせる、のだ。
男の手から。
再び、豆が落ちて、コロコロと転がった。
一粒の豆。