ピーターは少し寂しそうに言った。
「だからね、僕は友達が欲しいって思ったんだ。お母さんには会えなくても、友達が欲しいって。子どもならここに来られるからね。だけど、子どもでもここに来ることも稀なんだ。それに帰るのも気まぐれでさ。それでも僕は強く願ったんだ。そして、彼が生まれた。」
パチン。
ピーターは指を鳴らす。
「あっ。」
私は息を飲んだ。三日月型の口の仮面に、カラフルな長袖長ズボンに、ピエロが被るような帽子。あの男だった。笛を吹いてネズミを退治して、笛を吹いて私達をここへ連れてきたあの奇妙な格好の男。それはピーターの足元から伸びていた。
「彼はね、僕の影から出来たみたい。それで彼はネバーランドを出られるみたいなんだ。だからお願いしちゃったんだ。友達が欲しいって。彼がどうしてウェンディの町に行ったのかとか、彼がどうしてあんな笛を持っていたのかとか詳しいことは分からないけれど、僕は友達が出来て嬉しかった。ほんの少し遊んだら帰らせるつもりだったんだ。だけど、ここで一つ問題が起きた。」
ピーターは話を切って私を見つめる。
「ウェンディ、君だよ。」
「私……?」
「ウェンディは心のどこかで愛されたいって思ってたんだ。このネバーランドは子ども達の…特に親に愛してもらえていない子ども達の為の国なんだ。大人に愛されたい、認められたい。そういう思いから一旦離れるための場所。ウェンディの思いがみんなをここに留まらせたんだよ。」
「そんな…だって、私は…」
「もちろん、ウェンディは何も悪くないよ。きっと自分が愛されていることも分かってたんだ。だけど、どうしても周りの子と比べちゃったんじゃないかな。その…お母さんとお父さんがいない事を…さ。」