小説

『ウェンディとネバーランド』あやもとなつか(『ハメルーンの笛吹き』『ピーターパン』)

おばさんは私とナナを引き寄せ、広場の出口に向かった。しかし、そうする間にも大量のネズミが入ってくるからなかなか前に進めない。そのうえ、周りの人々も広場の出口に我先にと逃げ込もうとしていた。
「 転ばないようにね!転んだらあのネズミ達に連れていかれるわ!」
おばさんは周りの喧騒にかき消されないよう、大きな声で言った。
チラリ。
私はふと後ろを振り返った。人ごみの隙間から、男の奇妙な格好が見えた。それはひょこひょこと村の出口、ヴェーザー川の方向へ歩いているように見えた。

私達はどうにかこうにか広場を抜け、家に帰った。おばさんはこの事をおじさんに話し、私とナナもジョンに同じ話をした。
「ほんと?」
ジョンは目を丸くして、すぐに目を輝かせ始めた。
「それってすごい事だよね!」
「ええ。でも気味が悪いわ。」
ナナは心底気味が悪そうに顔を顰めた。
「そうかな?素敵だよね?もしかしたら、笛でネズミ達とお話したのかも!」
「ふふ、そうね、そうかもしれないわ。」
ナナはジョンのキラキラ輝く瞳を見て、少し困ったように笑った。
「でも、ジョンはあのネズミみたいに笛の音について行っちゃだめよ。ウェンディもね。」
「そんな馬鹿なことしないよ!」
ジョンが頬を膨らませながら言うのと、私が顔を赤らめながら言うのは同時だった。
「僕、もう5歳なんだよ。」
「私だって、もう10歳だもん。」
私達が必死に抗議するとナナは優しく微笑んだ。

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