『エレベーター』
木江恭
(『銀河鉄道の夜』)
配達員の音川は大きな荷物を携えて、高級マンションのエレベーターに乗り込む。途中で乗り合わせる奇妙な面々に戸惑いつつ上層階へ向かっていると、最後に乗ってきたのは高校時代の友人のテツだった。二人を乗せて、エレベーターはさらに上昇する。上へ上へ。
『人殺し』
大前粟生
(イソップ寓話集『人殺し』)
新しくアパートに引っ越してきた男はひょんなことから隣の部屋に住むヒトシを殺してしまい、ヒトシの姉に追いかけられてクリスマスの夜に町を走り回っている。その様子をレストランの窓越しに中年の男女が見ている。中年の男女は追いかけっこするふたりが気になって、ふたりを追いかけていく。
『地蔵・ゴーズ・オン』
西橋京佑
(『笠地蔵』)
爺さんは、自分を見失った。地蔵もまた、存在を見失った。だけど、答えはずいぶんシンプルで、それを明日も明後日も続けていくことが、生きていくということだと地蔵は得心する。傘をつくらなくなった爺さんと、傘をかぶらなくなった地蔵の、静かな日曜日の午後のお話。
『ユキの異常な体質/または僕はどれほどお金がほしいか』
大前粟生
(『雪女』)
記録的な吹雪の日、突然ひとりの女が部屋に現れた。女がふぅっと息を吹きかけると、ねむっていたパパの顔がみるみるうちに青ざめていって、死んだ。女は次の冬にも部屋にやってきてパパを殺した。そして僕はお金目当てで女と暮らしはじめて、ある朝起きるとバケツのなかに水がたまっていた。
『キオ』
大前粟生
(『ピノキオ』)
内気な男の子が公園の砂場で知らないおじいさんに出会う。元人形職人のおじいさんはひとりぼっちの男の子を励まそうとして接するが、母親がそれを拒む。別の日に、おじいさんは男の子に人形の作り方を教えようとするが、今度は父親にきつく断られ、おじいさんは公園を出ていく。ある日、男の子が死ぬ。
『伝説のホスト』
植木天洋
(『口裂け女』『カシマレイコ』『トイレの花子さん』『壁女』『メリーさんの電話』)
新宿歌舞伎町、眠らない町。真夜中に足音を響かせて歩く伝説のカリスマ・ホスト零〈レイ〉。彼は、新宿の片隅に潜む女性の魑魅魍魎をカリスマ・ホストの華麗なテクニックと心のこもった言葉でどんどん成仏させていく。その女、口説き”落とし”ます。
『桃太郎と桃太郎と桃太郎と桃太郎と桃太郎と桃太郎と桃太郎と』
大前粟生
(『桃太郎』)
桃太郎が川で洗濯をしていると、桃太郎がどんぶらこ、どんぶらこ、と流れてくる。桃太郎が家に持ち帰って桃太郎といっしょに桃太郎を切って見ると、なかからはなんと大きな桃太郎が出てきた。やがて青年になった桃太郎は鬼退治のために鬼が島にいくことを桃太郎と桃太郎に告げる。
『笛吹き男のコーダ』
木江恭
(『ハーメルンの笛吹き男』)
碓氷(うすい)はある組織の依頼で、湯治場の葉芽留宿(はめるじゅく)に滞在している。飯屋で耳の聞こえない女児を助けた夜、ついに仕事の指令が下った。それは組織の裏切り者を消し、奪われた「商品」を取り戻すこと。碓氷は人を操る魔性の笛を携えて仕事に向かう。「商品」は、子どもたちだ。
『歌えメロス』
ノリ・ケンゾウ
(『走れメロス』)
メロスは激怒した。大手メーカー勤務の超一流営業マンのメロスは、行きつけの牛丼屋で邪智暴虐の限りを尽くすバイトリーダーを除くべく、牛丼屋への転職を決意する。猶予は三日間。メロスよ、三日後の日の出までに完璧に仕事の引き継ぎや送別会を済まし、バイトリーダーの悪の心を打ち砕くため、歌え!
『注射を打つなら恋のように』
入江巽
(『細雪』谷崎潤一郎)
「薬物はあなたの人生を確実に変えてしまいます」、横目で見た、大学の保健室のようなところに貼ってあるポスターにはそう書いてあった。好きになった人は大学の掃除のおにいさん。シャブ中。あたし、どうしたらいいんかナ。どんな風に変わるのかナ。
『怪物さん』
大前粟生
(メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』)
土曜日の午後をいかがお過ごしでしょうか。北条院時子です。毎週ゲストの方に半生を語っていただく番組「人生は一期一会」。今週のゲストは怪物さんです。どんなお話が聞けるのでしょうか。とっても楽しみです。そして今日は、怪物さんに会いたいというあの方にも登場していただきます。