小説

『桃太郎と桃太郎と桃太郎と桃太郎と桃太郎と桃太郎と桃太郎と』大前粟生(『桃太郎』)

 ある日、桃太郎は山へしば刈りに、桃太郎は川へ洗濯をしにいく。桃太郎が川で洗濯をしていると、桃太郎がどんぶらこ、どんぶらこ、と流れてくる。桃太郎は早速それを持ち帰ろうとしたが、川はあなたが思っているよりも深くて、桃太郎は冷え性だ。桃太郎はそのことをよく知っていて、桃太郎は自分から岸に上がる。桃太郎は桃太郎を持って家に帰って、桃太郎が帰ってくるのを待ちわびている。
桃太郎が帰ってくると桃太郎は川で拾った桃太郎を自慢げに桃太郎に見せる。
「さっそく桃太郎を切って、食べようじゃないか」と桃太郎がいう。桃太郎としてもそのつもりだったが、包丁を研ぐのを忘れていた。桃太郎は桃太郎をどうせならひと息で真っ二つにしたい。桃太郎が包丁を研いでいる間、桃太郎はそわそわしている。桃太郎は意外にも硬いので、包丁はよく研がないといけない。桃太郎は桃太郎がテレビを見て呑気に笑っているのでいらいらしている。桃太郎と桃太郎は倦怠期だ。
 桃太郎は桃太郎に包丁をあてた。すると桃太郎はひとりでに割れ、なかからはなんと、元気な桃太郎が出てきたではないか! 桃太郎と桃太郎は桃太郎が桃太郎から出てきたので桃太郎と名づけた。桃太郎と桃太郎と桃太郎は桃太郎をおいしく食べた。
 桃太郎はすくすくと育って、立派な青年になった、と桃太郎は思っている。でも桃太郎は桃太郎に隠れてたばこを吸っている。桃太郎は夜遅く疲れて帰ってくる桃太郎みたいにはなりたくないと思っている。桃太郎は早く家を出たかった。
 ある日桃太郎は市民会館の前で、鬼退治者募集の広告を見た。
「桃太郎、桃太郎、桃太郎は鬼退治にいってきます」と桃太郎はいった。桃太郎は悲しんだが、桃太郎は桃太郎のことを勇ましく思った。桃太郎が次の日の朝早くに出発するというと、桃太郎は桃太郎にきびだんごを持たせた。
 朝日を浴びながら、桃太郎は泣いて桃太郎が泣いた。意外にも桃太郎も泣いた。
 こうして、桃太郎の旅がはじまった。
 桃太郎は鬼退治をするつもりなんてなかったが、桃太郎は鬼退治をするものということに、昔からなっている。桃太郎はそんなの糞くらえと思っているが、足は鬼が島に向いてしまう。あなたが桃太郎を鬼退治をする存在にしているのだ。
 桃太郎が嫌々歩いていると、桃太郎がいた。桃太郎は木から飛び降りて桃太郎にいう。
「桃太郎、腰につけたきびだんごをひとつ桃太郎にくださいな」

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