灯りがつくと、ベッドの側にひとりの女が立っていた。あの女だ。
「パンツ履きなよ」僕がなにかをいう前に女はそういった。
「あ、はい」
でも、僕はパンツを履きたくなかった。なぜって、それは恥ずかしいパンツだったから。パパに「これを履いてくれたら5000円プラスするから」といわれたから。「8000円」と僕はいったのだった。
「どうしても、パンツ履かないとダメ?」と僕は聞いた。かわいらしく聞いた。実際、僕はかわいらしく聞くことに慣れていた。死んだパパもこれから死ぬパパも僕のそこに惹かれて僕のパパになったのだから。
「履きなさいよ」女は少し照れながらいった。
パンツはベッドの下に落ちていたけど、恥ずかしいパンツだったから僕は洗面所にいって隠れて履いて、パンツを隠すために毛布を腰に巻いて部屋にもどった。ズボンとかは洗面所に持っていかなかったから。部屋にもどるとパパの顔が青ざめていた。僕はショックで毛布を落としてしまった。
「パパ、パパ!」と僕はパパの肩をゆすったけど、起きるはずがない。僕が途方に暮れていると、女が、
「このことを、決してだれかにいってはいけない」といった。
「またそれかよ!」僕は女の腕を掴んだ。また逃げられるわけにはいけない。「あのさぁ! 前はさぁ、いわなかったよ。こわかったし。でも、二度目だよ? 二度目。二回も、その、こんなことが起きて、警察にどういうわけ? 前のパパは突然死でいけたけど、もう無理っしょ。ほんと、いい迷惑」僕は激怒した。
「あ、うん、ごめん」と女がいった。
「は? 小さくて聞こえないんだけど」
「ごめんって」
「もっかい」
「ごめんなさい」
「あんた、だれなの? 名前は?」
「ユキ」
「へぇ、冷たくなるし、雪女みたいだね」
「……だれにも、いわないで」
僕は一瞬固まった。
「え、まじ?」
「うん」