小説

『ユキの異常な体質/または僕はどれほどお金がほしいか』大前粟生(『雪女』)

「そうなんだ」そんなことでは僕は気を許さない。
「今はまだ冬だから、外にいても大丈夫だけど、夏になったら死んじゃう。もう、嫌なの。スーパーとかお肉屋さんの冷凍室に住むのは。ずっとひとりぼっちなのは。話しかけても、幽霊だと思われてしまうし」
「わかった。いいよ。住んでも」
「ほんとに?」
「その代わり、お金ちょうだい」パパがいないんだ。だれかが代わりに僕にお金をくれないといけない。
「なんだ、そんなことか。ちょっと待っててね」
 ユキはそういって、部屋を出ていった。僕はユキが出ていってホッとした。でもすぐにユキが出ていったことを後悔した。部屋が温まりはじめると氷が溶けて、水浸しになって、テレビやパソコンが壊れてしまったんだ! これじゃあまるで通り魔だ! あいつは最低だ! 僕が激怒してスピーカーとか食器とかを壊しまくっていると、ユキが帰ってきた。
「はい、これ、とりあえず」ユキは僕に札束を渡した。
「どうしたの、これ」
「秘密」
「大丈夫?」
「安らかな顔してたわ」
「逮捕とかされないよね」
「うん。明日も別の人にもらってくる」
 その年の冬にたくさんの人が死んだのはそういうわけだ。

 僕はペットボトルをいくつか持ってきてコップの水を注いでいった。少しこぼしてしまって、慌ててティッシュで拭いて水にばれないようにした。ペットボトルでパンパンになったバックパックを背負って外に出た。
「暑いー。死ぬー」と水がいった。
「水が溶けることはないから、大丈夫だよ」
「これが夏かぁ」
「海が待ってるよ」

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11