はっと振り返ると、船橋爺さんが雪道を早足で歩いてくる。気がつくと消えていた足跡が、再び雪の上に姿を表していた。
そしてその代わりに、あの少女は忽然と姿を消していた。
「どうしたんだ、いきなりいなくなって」
心配したぞ、と爺様は怒る。足元を見ると、俺と爺様の足跡はあったのに、彼女が脚を踏み鳴らした跡はなかった。
「その……人がいて」
どう説明すべきか、答えに窮した。だが伝えなければならない。信用できるかかなり怪しいし、そもそも彼女が何だったのかもわからない。だが最後に俺を見たときの、あの試すような目つきが気になった。
「……子供を見たと言っていました。向こうの川で」
はっきりと伝えた。爺様は訝るような視線を俺に向ける。
「一体、誰と会ったんだ?」
「女の子です。ウリ、と言っていました」
「ウリだと?」
爺様が目を見開く。何かを探すかのように辺りを見回し、再び俺を見る。
「確かにウリと言ったんだな?」
「はい」
俺が頷くと、船橋爺さんは早足で川の方へ歩き出した。急ぐぞ、という言葉を残して。何か知っているようだが、とにかく俺も慌てて後を追うしかなかった。
*
しばらく歩いたとき、雪の上に二種類の足跡を見つけた。一つは小さめの靴の跡……おそらく喜一のだ。周辺の雪が荒れているところを見ると、足を引きずっているようだ。
もう一つは大きな、肉球と爪のついた動物の足跡。近くのブナの木にはいくつかの、真新しい引っかき傷がある。最悪なことに、その二つは同じ方向へ向かっていた。