散弾銃と鉈を引っさげ、いつも猟師が集う小屋へ向かった。古いログハウスの中ではすでに先輩猟師たちが詰めており、誰がどの辺りを捜索するか話し合っている。船橋の爺様も、笑い皺の多い顔に深刻な表情を浮かべ、その輪に加わっていた。
いなくなったのはよく知っている近所の子だ。正義感が強いが少し無謀で、今回も友達と何かの賭けをして山へ入ったらしい。自然はそうした冒険者に優しくはない。
人数が揃い、俺は爺様と一緒に山へ向かった。「おキツネ山」と呼ばれるこの山は昔から狩場として有名で、爺様も俺も歩き慣れている。呼び名は稲荷信仰の影響らしく、地元の猟師は絶対にキツネを撃たない。もっともキツネの肉は最低の味だというし、奴らに家畜を食い荒らされたりしない限り、好き好んで撃つ猟師はいないだろう。
「無事かどうかは、おキツネ様の機嫌次第だ」
素朴な言い伝えを口にし、爺様が先に立って歩き出す。若い頃より大分体力が落ちたと言うが、雪の降り積もった山道を軽快に歩いていく。肌を刺すような寒さの中、俺もひたすら雪を踏んで着いて行った。雪の表面は柔らかいが、下の層は硬く凍っており、踏むたびに低い音を立てた。木々も白一色になっており、枝には立派な氷柱を下げている。なかなか綺麗だ。
それらの光景を眺めつつ、俺たちは銃を背にして杖をつき、周囲を警戒しながらゆっくりと進んだ。
「クマには麻酔銃を使え、なんていう素人に代わってもらいたいですよ」
「ははは。クマを一瞬で眠らせられる薬があれば、わしだってそっちを使うわい」
爺様はいつものように笑った。不謹慎と思う人もいるだろうが、笑わなくてはやっていられない。
俺は散弾銃を持ってきているが、弾は一粒弾、つまり散らばらない大きな弾だ。シカなどの大型の動物を狩るのに使う。船橋爺さんが背負っているのはより威力の高いライフル銃だが、こういった銃を使っても、一撃でクマを仕留められる保証はない。そして手負いのクマは手のつけられないほど凶暴になる。奴らの突進は時速四十キロ、腕力は人間の頭蓋骨程度を一撃で砕く。麻酔銃は近づかなくては当たらないし、下手に撃ち込んで怒らせれば、グロテスクな結果は見えている。
アイヌ民族には鉈一本でクマを倒す猛者もいたというが、彼らとて大抵は毒を塗った矢を使った。道具を使っても、人間と猛獣の差を簡単には埋められないのだ。だから会わないに越したことはないので、携帯ラジオを持って歩く。クマは耳も鼻も良いが目は悪く、がやがやと話し声がしていれば、大勢いるように見せかけられる。これも爺様から教わった。