当然のように言うお爺さんにあてられて、桃太郎もそのあたりで納得する。何となく、桃が真ん中に描かれた鉢巻を巻いてみたりする。そうして黍団子の袋を腰に付ける。結構な大きさの袋である。一度置いていた幟を見ると、「日本一」と書かれてあった。
「お婆さん、この日本一というのはなんですか」お婆さんに尋ねると、「日本一の黍団子、という意味だよ」という答えが返ってきた。
「鬼も欲しがる黍団子さ」と誇らしげに続ける。そういうのもあるのかと桃太郎は思う。
幟を背に括り、さてと居住まいを直して自分の姿を今一度見直してみて、桃太郎はふとお爺さんとお婆さんの方を向き直り、頭に浮かんだことをそのまま口にした。
「これでは、ただの黍団子屋さんではないですか?」
鬼が島への道すがら、桃太郎は道行く者に黍団子を与え、いくらかの仲間を得た。お婆さんの言うことも満更誇張でもなかったなと、「日本一」と書かれた旗を見て思う。
「ところで」と、桃太郎は立ち止まり、後ろの仲間を振り返った。皆、それを見て足を止める。
「これから鬼退治に行くわけだけれど、彼らはどんな悪さをしたのだっけ」
「村を襲ったんじゃ?」と犬が言い、
「金を盗んだとか」と雉が言い、
「女を攫った、というのは」と石臼が言う。
隣の猿は沈黙を守り、遠い目であらぬ方向を見ていた。
「鬼って言うぐらいだから、人殺しをやってもおかしくない」と言うのは百足で、
「しかしそれは」やりすぎだろうと蜂が諫める。
「やりすぎなものか」鬼とはそういうものだと蟹が言って、それに物申すと水桶が口を開いたあたりで桃太郎が「ちょっと待った」と割って入った。何か言いかけていた針や、卵あたりも、皆が桃太郎のほうを見た。
「多すぎやしないかね」
「何がです」と蟹が首をかしげる。
「いや、仲間が」
石臼が、ずい、と前に出てくる。
「仲間は多いほうがいい。というか、そうしたのは貴方でしょう」