小説

『レーヴレアリテ』柿沼雅美(太宰治『フォスフォレッスセンス』)

 彼氏に会う前の時間調整でサチエを誘ったのだろうか、いや、サチエから誘ってみたらアミは待ち合わせもあるしまぁいいかとなってアミが付いてきたのか。
 この2人がほんとに一緒にライブに行ったり家に泊まったりするのかな、と思いながら、僕はチェダーチーズでべとべとになった指をべろべろと舐めて席を立った。
 店を出ると、サンタの格好をしたツインテールの女の子がクリスマスケーキどうですか、とハンドベルを鳴らしながら売っていた。なんてことない駅なのに、駅前の柱には電飾がつけられていて、軽快な音楽に合わせてメリークリスマス&ハッピーニューイヤーと発光している。
 モッズコートのポケットに手を入れて、人の波に逆らうようにして家へ向かう。僕は、あぁいうのが嫌だったんだろうか。あぁいう心理戦みたいな絵合わせみたいなものが苦手で、学校に行かなくなったんだったっけ、それで毎日毎日ずっと部屋にいるから引き籠りって言われるようになったんだっけ、と考えながら家まで歩いた。
 おかえり、という母親の声にちゃんと、ただいま、と返してそのまま風呂場に行った。

 部屋の中にいるはずの僕は、履きなれたジーンズとセレクトショップで買ったPコートを着て、仕事に行っている。夕方に近い時間でも仕事を切り上げようとしている。4周年の会社は渋谷の宮益坂をのぼりきったところにあって、企業や海外のイベントのグッズのデザインをする。
 完全な結果主義で、オフィスにいてもいなくても、きちんとしたものを作って評価を得られれば自由なのがありがたい、と思いながら働いている。
 オフィスには、白く大きな丸を描くようにテーブルがどーんとあって、グリーンの椅子をどこへ置いても使えるようになっている。パソコンだったりタブレットだったり、自分の使っているものを好きなところに置いておいていい。
 コーヒーマシーンで今日はショコラテを淹れて、観葉植物の隣へ椅子を動かして座り、ノートパソコンで出来上がったばかりのアニメーション年賀状チケットを見直した。若い男の子のアイドルグループで、発足したばかりのファンクラブの会員宛に送られるWEB年賀状を担当したのだ。ハッピーニューイヤーの英文を指か矢印でこすると、ライブのチケット番号が浮き出てくる仕組みになっている。これに一番に気づいたファンの子はどんな顔をするだろうか、そう考えると作った僕自身がわくわくしてくる。
 これだって僕だ。
 夢の中の僕には人を喜ばせられるような仕事があって、絵理香という彼女もいる。髪はボブで、服装はデニムに白のVネックのニットにスタンドコートを羽織っているような、地味だけど清潔感のある彼女だ。

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