小説

『レーヴレアリテ』柿沼雅美(太宰治『フォスフォレッスセンス』)

 「マジで! なんかアミちゃんがレヴレアとか意外。切ない系の歌手とか聴くのかと思った。会いたくて会いたくて的な」
 「そういうのも聞くけど、やっぱりかっこいいアイドルは好きだもん。ねぇ、サチエはメンバー誰好き、誰好き?」
 「あたしは海人かな」
 「マジで、同じ同じ! みんな勇気がいいって言うからさ」
 「うん、言う言う。勇気、チャラいのにね」
 そうそう、と手を叩いて盛り上がる。こんなに急に空気が華やぐなんてやっぱりアイドルは偉大だ、と思う。
 「サチエ、ライブとか行ってる?」 
 「うん、行ってる行ってる。でも地方でやらないで東京か大阪じゃん? だから東京行く時とかうちわめっちゃ持ってって電車とか超目立ってる」
 「えーじゃあそういうときはうちおいでよ。私ひとり暮らしで寂しいし、来てくれて全然いいし。全然泊まっていいし、全然」
 アミがカフェラテを両手で包みながら笑う。なんかい全然言うんだよ、と突っ込みたくなる。
 「えーまじでー、うれしー。泊まる泊まるー」
 このテンションだからこの流れになってるけど、ほんとに泊まりに行こうともほんとに泊めようともお互いに思ってないからこんなにスムーズに会話が弾んでいるんだろ、と二人に聞きたくなる。
 「あ、ちょっとごめん、メールしていい?」
 聞きながら既にスマホをいじりはじめているアミに、サチエが、いいしいいし、と返した。
 「私あと10分くらいしたら帰ろうかな」
 急に帰る話題になったアミに、サチエは、うんいいよ、とあっさり言いながらナゲットを連続して2個口に入れた。
 「メール、彼氏?」
 「うん、そう、今日も泊まるって話してて。でも向こうの夜の終わりが、あ、同い年だから向こうも研修中なんだけどね、終わりの時間が分からなかったから、とりあえず時間合わせて待ち合わせって思ってて」
 「あ、そうなんだー。いいなぁー楽しそう」
 いいな楽しそう、と素直に言えるサチエっていい人なんだろうな、と思いながら僕はコーラをすすった。もう氷しかなくて、ズズズー、と音が響いた。

1 2 3 4 5 6 7 8 9