小説

『マッチ売りの少女とぼく』霜月りつ(『マッチ売りの少女』)

 そう言ってマコトのおでこに自分の額を押し当てた。

「ありがとう、マコトちゃん。マコトちゃんがわたしを助けたいとずうっと思ってくれていたから、わたしは生きることができるわ」
「ほんと? 死なない? マッチをつけない?」
「つけないわ。見て」

「マッチ売りの少女」が指差す方、白い石の道の上にたくさんの赤いスカートの「少女」たちが倒れていた。
「少女」たちはまるで雪みたいにどんどん星空から落ちてくる。
 ふわりと道に降り立つと、そのまま倒れ、そしてマッチの火のように燃えあがり、たちまち消えていくのだ。

「アンデルセンのお父様がわたしたちを作って、そしてたくさんの人に読み継がれて、そのたびにわたしたちは死んでいくの。でも」

 その中の一人が道に倒れたあとゆっくりと起き上がった。
 そのそばには別な女の子がいて、手に持ったお菓子を渡している。

「読んでくれた人の中に、わたしたちを助けたいと思ってくれる人がいる。そうしたらわたしたちは生きていくことができるの。わたしたちのために心から悲しんで、どうしたら助けられるかと考えて、ずっと覚えていてくれる人が」
「忘れないよ!」
 マコトは叫んだ。
「忘れるもんか!」
「ありがとう、マコトちゃん」
「マッチ売りの少女」はにっこりと笑った。絵本の挿絵の中には描かれていなかった笑顔だった。
 そうだ、あの絵本の「少女」はどのページも悲しそうな顔だった。

 マコトは初めて見る「少女」の笑顔にぽおっとなった。

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