小説

『マッチ売りの少女とぼく』霜月りつ(『マッチ売りの少女』)

 
「ママ、ママ!」
 マコトは先を歩くママの手をひっぱった。
「お金ちょうだい! おねがい! アレ買って!」
 ママはマコトが急に大きな声をだしたのでびっくりした顔をした。
「なあに、マコちゃん。どうしたの? ガチヤガチヤなんかもう買わないわよ」
「ガチャガチャじゃないよ! そんなのもういらないよ! だからお願い、マッチを買って! あの子のマッチ、ぜんぶ買って!」
「まっち?」
 ママは不思議そうな顔をしてあたりを見回した。
「まっちってなんのことなの?」
「だからあの子の、」
 言ってからマコトは「マッチ売りの少女」の姿が見えなくなっていることに気づいた。
「ああ、行っちゃった! どこかへ行っちゃった!」
 マコトは駆け出そうとしたけれど、ママがその手をぐいっと引っ張った。
「ほら、ちゃんと歩いて」
「ママ、あの子がいたんだ。マッチ売りの子が」
「はいはい、また今度ね」
「今度じゃだめだ、あの子、あの子が」
 マコトがどんなにわめいても泣いても、ママは手を離してくれなかった。
 マコトは「マッチ売りの少女」を助けられなかったことが悲しくて、侮しくて、わんわん泣きながらお店の前をママに引きずられていった。

 
 その夜、やっぱりぐずぐず鼻をすすってベッドに入ったマコトは、どうしても眠れなくて、時計がボンボンと時間を打つのを数えていた。
 十三個まで数えたとき、マコトは変な気がした。
 ずいぶん多いような気がしたのだ。

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