小説

『マッチ売りの少女とぼく』霜月りつ(『マッチ売りの少女』)

 夕方、ママが迎えにきてくれた。
 ママの手を握ってマコトはもしママがいなくなって、自分がマッチを売ることになったらどうすればいいんだろうと思った。
 大体マッチなんてさわったことも、本物を見たこともないのに!
「マコト、スーパーに寄って帰るわね」
 ママはそう言ってお店屋さんの集まっているところへ向かった。
 たくさんの人があっちから来たり、こっちへ行ったりしている。

 え?

 マコトはびっくりした。
 その人たちの中に「マッチ売りの少女」がいたからだ。

「マッチ売りの少女」は、先生が見せてくれた本の挿絵と同じ服を着ていた。
 白いブラウスに赤いスカート、足は裸足で手にかごを持っている。

(マッチ買ってください)
(マッチ買ってください)

 でも周りの大人たちは誰も見えてないみたいに通り過ぎていく。

 マッチを!

 マッチを買えばいいんだ。
 そうしたらあの子はマッチをつけない。
 あの子がつけるマッチを全部買っちゃえばいいんだ。

 でもマコトはお金を持っていなかった。

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