蟹は更に泡を吹きながら虫が集り柿自体が見えなくなっているそれを、かぶりついて食べた。
「柿、柿、柿…」
毒性の虫が居たからなのか、蟹は食べた物と泡を大量に吐き出した。
「ぐえぇぇ。ぐぇぇぇ。柿。僕様の、柿、待って、待って…」
そんな事を言って自分が吐き出した物を再び吸い込みまた吐き出し吸い込み吐き出し…を繰り返して紫色に変色して蟹は絶命した。
はあ。全く悲惨な奴。汚らわしいったらないわ。でもやっと邪魔者が消えた。これで私は世界征服に乗り出せるわ。うふ。でも、まずは猿の代わりが必要ね…。木が登れる奴、この辺に居ないかしら?ま。とりあえず、この完成された芸術品のような柿を数個落としておけば何かしら集まるでしょう。
そう柿の木は思い数日が経った。雪は降っていないが、冬の寒さの所為だろうか、何者も小山の頂上には来なかった。
柿の木は焦り、もっと柿を地面に落とした。ほおら、こんなに美味しそうな柿が沢山。と嘯いて。
そして数日。何も寄ってくる事は無かった。
いや、正確に云えば有った。虫である。腐った柿に集っていた虫が蟹の死骸で更に繁殖し、柿の木の根元でうねうねしていた。
そして春がやってきた。ここが勝負どころだ。と柿の木は思った。今まで寒くて誰も来る事ができなかった。でも暖かくなれば私の芳しい香りを頼りにきっと誰かくるわ。きっと。きっと。
しかし誰も来なかった。柿の木の香りがよろしくなかったのだろうか?そんな事はなかった。柿の木は「選ばれしもの」らしく芳しい香りを放っていた。だが、それより下部で蠢く毒虫そして腐った柿の臭いがそれを打ち消すばかりか、打ち負かしており、臭くて近寄るものは無かった。
そして夏がやってきた。腐った柿、そして毒虫の大群は幹の半分以上に達しており、柿の木を腐食していた。
あ、あああああっ。腐っていく。腐っていく。私が腐っていく。どうして?どうしてこんな事になったの?何がいけなかったの?ああ臭い。臭いわ。ああっ毒虫が私の中に入ってくるのが分かる。腐った汁を私の中にいれないで。やめて、ああ、やめて、腐る腐る腐る。入ってくるゥ。
どうして?どうして?世界征服を望んだ私がいけなかったの?ねえ?誰か答えてくれない?ねえ?猿でも蟹でもいいから。ねえ?仲良くしましょ?ね?仲良くしましょうよ。ああ…もう腐っていくわ。腐っていく。あああああっ。柿の中でも私ほど壮絶な死を迎えるのって他にないんじゃないかしら?ねえ?そうよね?ねえ?だって私は特別なんだから。選ばれしものなのだから。そうよねぇ。それってこういう事だったのね。あははははははははは!