「え?そんなっ。話が違うじゃないか。僕は、何の為にこんなに頑張ったんだ…」
柿の木からそんな事を言われ今まで気丈に振舞っていた蟹は落胆して地面に伏せた。可哀想な蟹である。
そこへ。
たったったっ。と足音。猿が来たのである。
「おお。ホントに柿の木になってらぁ。で、お蟹さん。何を伏せっているんだい?それがお前さんなりの、喜びの表現法?奇妙な」
猿の声を聞いて立ち上がり涙を流しながら蟹は言った。
「お猿さん、聞いてくれよ。あの柿の木の野郎。僕に柿を渡しやがらねぇんだ。頑張って育てたのに。それに僕は蟹だから、木に登る事も出来ない。自分が蟹である事を呪う」
「なんだい、そんなことか。まあまずは俺のこのふさふさの腕で涙を拭きな。うわっ鼻水付いた。まあ、俺に任せときなさい」
そう言って蟹の鼻水が付いた腕を怪訝に見てから、柿の木に言った。
「柿の木さんよ、話が違うじゃねぇか。蟹さんに柿を食べさせてやるってさっき言ってたじゃん」
「それには事情があります。ただ貴方に言う義務は私にありません」
「かぁぁ。太ぇ柿の木だわ。じゃあもう俺ちょっと勝手に登るから。柿を採取させて貰うから。あらよっと」
「きゃ、えっち」などと言う柿の木を鹿十して猿はするすると柿の木に登り、一つもぎ取った。
「いやぁこれは見事な柿だね。美味しそうな柿だ」
「お猿さん。食べてみたら?」
「あん?それはいけねぇよ。だってこれはお蟹さんとおにぎりと交換したものだから俺が食べる。っていうのは、その、ごにょごにょごにょ」
「でも、貴方がもいであげるのだから一個くらい食べても良いんじゃない?」
「え?そうかなぁ?じゃあお一つ。あ、う、美味い。シャキシャキとした歯ごたえとそして口の中に広がるしつこく無い甘味。美味い。うきゃあっ」
猿が柿を食べてはしゃいでいるのを見た蟹は言った。
「あっちょっと何食べてんの、あの猿。信じられないんだけど。ちょっとぉ!僕に取って呉れるって言ってたじゃん!」
それを聞いた猿は柿の木が極限まで硬く仕上げた渋柿をもいで、蟹へ投げた。