「できますできます」
そんな所へ蟹がおにぎりを持って現れた。
「おやおや、お猿さんじゃないか。一人で何喋ってんだい」
「おお、お蟹さんじゃあないか。元気?」
「元気」
「美味そうなおにぎりだなぁ。どうしたんだい?」
「さっき道端で拾ったのだ。家でゆっくり食べるか景色の良い所で食べるか、思案している所さ」
「ほう。道端に捨てるなんて勿体無い事する奴も居るもんだなぁ。それにしても美味そうだなぁ美味そうだなぁ。俺は腹が減って死にそうなんだ。そいつを俺に呉れないか。あ、勿論タダってわけじゃあ無い。この柿の種と交換って事でどうだい?」
「柿の種、ねぇ?確かに僕は柿が好きだよ。無類の蟹好きのお蟹さんと云っても過言では無い。ただそれが、柿を実らすには長い年月が必要だろう。僕が生きているうちに柿が食べられるとは思わないね。蟹の一生は短い。太く短く生きるのさ」
「そこだよ、お蟹さん」
「どこ?」
「つまりね、この柿の種はなんか物凄い速度で成長してぶわぁーと柿を実らすって言うんだよ」
「言う?誰が」
「それは私です。お蟹さん」
「うわっ。誰?え?柿の種?喋るの?」
「ええ、まあ、私、特別ですから。選ばれしものですから」
「ふぅん。で、なに、あんた、直ぐに実るの?」
「勿論です」
「どうしよっかなぁ…」
「いいじゃねぇか、お蟹さん。おにぎりは一瞬腹を満たすだけだ。けどこの種があったらどうだい?毎日が満たされるに違いないぜ。バラ色ならぬ柿色の人生ならぬ蟹生だぜ」
「なるほど。分かったよ。君を死なせる訳にもいかない。これを食べたまえ。僕は暫しの空腹を我慢してこの柿の種が実るのを待つよ」