「おー、懐かしい光景ですね。オレもバーベキューやりてー」
不動産屋の田辺が庭から入ってきた。最終契約書にサインをすることになっている。
「あ、田辺くん。バーベキューももうすぐ終わると思うから、それからでもいいかな」
次郎と女将さんは、最後の楽しい光景を目に焼き付けるように、じっと五人を見つめている。田辺は小さく頷く。
「まだお肉食べる人いるー!?」小春が聞く。
「オレ食う!」「オレも!」「ボクもください」……。
男性陣は全員手を上げる。
「いいね~。じゃ、野菜も切るね!」
小春は楽しそうにまな板の前に立った。
次郎の鼻筋に、じんわりと込みあげてくるものがあった。
「あの頃も……」次郎の隣に座った田辺が言う。「男はみんな小百合を目当てにここに住んでましたからね。最終的にはオレと鶴野で小百合を取り合ったんですよ。……まぁ結局、小百合は鶴野の野郎が持って行っちゃいましたけど」
そんな頃もあったな、と次郎は田辺に振り向いた……「ん?」
田辺は、封筒を差し出していた。
「ああ……契約書か」
用意していた印鑑を取り出す次郎……だったが、封筒の裏面に〈鶴野より〉の文字をみつける。
「……これは?」
次郎は横を見るが、田辺は後ろに手をつき、遠い目で楽しそうな五人を見ている。次郎は女将さんと顔を見合わせ、封筒を開け、手紙を開いた。
《田島次郎 様 女将さん へ
突然のお手紙、お許し下さい。
まず先に謝らなければならないことがあります。
一八年前に、小百合が亡くなったことをご報告できなかったことです。心配をかけてしまうとのボクの判断で、どうしても伝えることができませんでした。本当に申し訳ありませんでした。