しかし、それでも小春は引き下がらなかった。
「それじゃ、残り二ヶ月だけでも、住んでいいですか!? 友達も一緒に二人で!」
私立高校に通い、すでに推薦で大学が決まっている小春も友達も、登校するのはもう数える程だからと言う。
驚く大家夫婦だったが、そこまで言ってくれるならと、小春たちの下宿を承諾した。
三日後。小春と友達が引っ越してきた。
住んでいる男子三人は口をあんぐり開け、何事だと大家夫婦に聞き、事情を知る。みんなの前で自己紹介をする二人。「よろしくお願いします!」頭を下げた。
女子を襲ったりなど到底できない草食系三人組だとはわかっているが、女子が下宿するときは原則として女将さんも二階の布団部屋で寝泊りをする。
初日の夜は小春たちが女将さんの部屋に来て色々と学校や自分たちの話をした。
昔の忙しい頃は、若い子と夜遅くまで恋愛や就職のことで話したこともあったし、こっそりと女子だけで夜中にラーメンを食べに行ったこともある。女将さんも懐かしい気持ちを思い出していた。
そして小春たちが住み始めて一週間が経った頃から、小さな異変が起き始めた。
もう何年もこんなことはなかったのだが、住んでいる男三人が入れ替わり立ち代わり、一階の大家宅を訪ねてきた。
別段用があるわけではなく、田舎からみかんを送ってきたのでお裾分けで、とか、歯磨き粉が安かったから大家さんの分も買ってきました、とか、窓のすきま風を自分で直したいのでどうすればいいか教えて欲しい、などなど、部屋に上がるほどの用事でもないのに、玄関先でまごまごしている。そして部屋に上げるのだが、用件とは関係のない世間話を始める。
不思議に思っていた次郎だったが、三人は必ず最後に言った。
「ここ、本当に畳んじゃうんですか? もし続けられるなら、住み慣れたし、社会人になっても引き続き住んでもいいな、って思うんですよね~……」
一ヶ月前に白鶴荘を畳む話をしたときは二つ返事でOKしたはずなのに。一ノ瀬も二階堂も三橋も、類に漏れず言った。
さらに、思いもよらない事態が訪れる。
ぽつりぽつりと、上京してくる新入生から下宿したいとの問い合わせが鳴り始め、最初は断っていたものの、すでに近くに住んでいる現役の大学生からも問い合わせが来るようになり、その数は一日に一〇件を超えるようになった。