部室にはサキと知らない女の子がいる。ふたりでこたつを囲んでいる。とてつもなく髪が長いから、ラプンツェル科の女の子だということはわかる。髪の色が同じだから、今日タクシーに使わせてもらった子かもしれない。そうじゃないかもしれない。
「手数料かかるじゃん。あ、そうだ。はい、これ、料金」と私は廊下に待たせていた、部室まで乗せてきてくれた茶髪のラプンツェル科の女の子に50円を渡して部室に入った。
私たちが所属するサークルは編み物サークルだ。表向きはそうなっている。表向きはそうしてくれ、とこのサークルを作ろうとした人が学校側からいわれたらしい。本当はなにをするサークルでもない。部室の扉に少しうざいくらいキラキラした、女の子たちが編み物バトルをするポスターが貼ってあって、流麗なフォントで「AMIMONO」と書かれているだけ。それだけがここが「編サー」であることを表している。編み物もしないことはないけど、主な活動は部室でだらだらすること。知らない人がごろごろしてたりもする。
「50円あるんじゃん」とサキがいった。
「いや、もうない」と私。
「パンプスはないけどさー、スニーカーとかサンダルとかはあるんじゃない、部屋のどっかに」
「あ、そっか、頭いいね、サキ」それで、この人は? と私が聞こうとすると、
「ケンジはどうなのよ」とサキがいった。
「人の彼氏呼び捨てにするなよ」
「はいはい。で、どうなの。ケンジくん」
「なんかぁ、金太郎目指すんだって」知らない人の前で、知らない人の知らない人のことを話すのは知らない人が会話についてこれなくて、私が知らない人の立場だったらそれは嫌だな、その知らない人が人の恋人だとかとても興味ないし聞いていて気まずい、と思ったが、ラプンツェル科の子は髪の毛でなにかを編んでいた。
「え、あの人、桃太郎科じゃなかったっけ?」
「親の希望考えてずっと我慢して桃太郎科にいたんだって。よく知らないけど、きのう実家に『金太郎になりたい』っていいに帰ったって」
「え、親の許可いるんだ」
「らしいよ」
「ミカはどう思ってんの? そのこと」
「いや、金太郎はね、嫌だよ、普通に。この前あいつ、手編みのふんどし作ってたし」
「手で編めるようなやつだと、すぐほつれるんじゃないの? 金太郎って相撲とるし」
「うーん、よくわかんないや。あ、で、忘れないうちに代えの靴さがしとかないと」