4、本当にやりたいこと
白雪姫は、晴れた日は湖のほとりに現れるようになった。
勢いよく湖から出てくるパフォーマンスは不要の旨を伝えたところ、三回目あたりから静かに現れるようになった。最初からそうして欲しかった。
「ちょっ……、シンデレラ、あんたどしたの!!そのほっぺた!!めっちゃ腫れてるし!!!」
開口一番、白雪姫はそう言って私を心配した。
―――昨夜、自宅にお客さんが来た。そのお客さんのひとりの若者は巷でも有名なイケメンで、継姉達のアイドルだった。その若者が、シンデレラの振る舞った料理を褒めた。「こんなに美味しい料理だったら、毎日でも食べたい」と言った。嬉しさも束の間、嫌な予感はしていた。予感は的中。彼らが帰ってから、シンデレラは継姉達に散々嫉妬の念をぶつけられたのだ。しまいには頬をはたかれながら、「あのイケメン、継母や継姉の前であんなこと言うんじゃないよ」と、褒めてくれた人を恨む始末だった。
「ハハハハハ、そりゃ傑作!!」
白雪姫は、手をパンパンと叩きながら言った。
「笑えないですよ、もう最悪です」
「あんたの継姉、マジ強めだね。鬼だわ。うちのクソババアも、一緒に暮らしてる時は、さすがに殴ってくることはなかったもんなー…」
そう言って、白雪姫は遠い目をした。そして、少し間をあけてから「でも」とつぶやいた。
「でも、あいつはあーしを何度も殺そうとしたかんね。血ぃつながってないとはいえ、一応ムスメだよ?なのに、自分の顔面のプライドを守るために殺そうとするとか、フツーじゃねーよ。あーしは、あいつを永遠に許さないわ」
私は何も言葉を返せなかった。そうだ。私は毎日、継母から嫌味を言われているし、姉達ばかり可愛がられてないがしろにされているけれど、それでも殺されそうになったことはない。でも、白雪姫は違う。何度も身近な人に殺されそうになる恐怖と失望を経験しているんだ。この恐怖と失望は、きっと何回白雪姫として生きていたって、永遠に慣れることはないと思う。