小説

『APPLE SOUR』月崎奈々世(『シンデレラ』『白雪姫』)

2、クソつまんない人生

「あんたもあーしもさ、よく同じ人生をまぁ五回もやってきたよねぇ」
 白雪姫は、私の作ったきゅうりのサンドイッチをむしゃむしゃ食べながら言った。原っぱであぐらをかいて、時おり太ももを搔いたりしている。噂どおり超がつくほどの美人なのに、正直台無しだった。
「でも、それが私たちの運命(さだめ)ですから。仕方ないですよ」
 私は水筒に入れてきたハーブティーを飲みながらそう返す。すると白雪姫は背中をばしんと叩いてきて、思いきりムセてしまった。
「あんた、マジおわってんね」
「……は?」
「聞こえなかった? じゃあ何度でも言うわ。「あんた、マジおわってんね」!!」
「それは聞こえてますから。繰り返さないで下さいよ」
 私はムッとしながら言った。初対面の人に、終わっている――しかもギャル語で―――なんて言われて、さすがに心外だった。
「ねえ。別の世界で暮らしてるハズのあんたとあーしが今こうして出会ってるワケ、分かる?」
 白雪姫の問いかけに、私は首を振った。すると白雪姫はニヤリと笑い、
「それは、あーし等が同じ気持ちだから。このクソつまんない一生を変えてやりたいって思ってるから。あんたの内に秘めたる強い気持ちが、あーしをこっちの世界に呼んだの」
 と、勝ち誇ったように言った。
「ちょ、ちょっと待って下さい。頭が追いつきません。というか、クソつまんない人生って……。白雪姫さんと私の気持ちを一緒にしないで下さい。私もあなたも、世界中の女の子たちの憧れや夢なんですよ。逆境に打ち勝って、最後は王子様と結婚できるんですから」
 そういうと、白雪姫は、
「ぷ。逆境とか、超ウケる」
 と言って、鞄の中から缶チューハイを取り出した。
「とりま、飲みながら話すべ」
 私たち、未成……。言おうとした時、既に白雪姫はグビグビと喉を鳴らし飲んでいた。

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