小説

『APPLE SOUR』月崎奈々世(『シンデレラ』『白雪姫』)

「ぷ。必死になっちゃって超ウケる。まぁ、あんたもあーしも、自分の努力で幸せを掴んだことはないよね。常に受け身っつーか……。こういうおとぎ話がいつまでも美談になってるから、最近の人間も待っていればいつか幸せになれる、いつか夢は叶うだなんて絵空事並べんだよ。そんで結局、よく分かんないまま後悔して死んでいくの。あーし等みたいに生まれ変わることも出来ないくせに。変わろうと思えば、今この瞬間も変わることができるくせに」
 白雪姫は、私にどつかれた肩をさすりながら言った。

 その夜。私は埃っぽいベッドの上で天井を見つめながら、考え事をした。
 このまま生きていれば、何不自由ないお姫様になれる。それは素晴らしいことだ。お姫様になることが自分の夢であるのならば、今まで通りのシナリオを生きればいい。何も間違っていない。だけど、本当はやりたいことがあるのに、今の環境に甘んじて時間を過ごしていくことは、不幸以外の何物でもない。新しい挑戦をしないことは楽かもしれない。でも、楽しくはないだろう。
私がいちばん好きなことは料理だ。献立を考えたり、作った料理を美しく盛り付けしていると、時間を忘れる。そして食べてくれる人が美味しいと笑うと、身体中が温かいひかりで満たされるような気持ちになる。これが仕事になったら、どんなに幸せなことだろうか。

〝こうしてシンデレラは王子様と結婚し、幸せに暮らしました。めでたしめでたし〟

「……何がめでたし、めでたしよ」
「……冗談じゃないわ」

私は自分のエンディングを思い返し、がばりと起き上がった。

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