「ぷは!超ウマい。やっぱこれだわぁ」
その姿を見ていたらもう何だかどうでもよくなり、私も缶を開けて飲んだ。りんごの味だった。
それから、私たちはしばらく飲み続けた。三本目の缶を空けたころになると、白雪姫は酔いが回ってきたのか、突然モノマネを見せてくれると言い出し立ち上がった。
そして、暇さえあれば鏡に話しかけているハイパーナルシストの継母や、酔うとオネエ言葉になる小人Aや、白雪姫がケリを入れると何故か異常な喜びをみせる小人Bのモノマネなどを披露してくれた。
私はその人たちと会ったことはないけれど、とにかく可笑しくて、お腹がちぎれそうなくらい笑った。笑っても、涙はこんなに出るものなんだなぁと思った。
笑わせて気が済んだのか、白雪姫は腰を下ろし、そのまま原っぱに寝ころんだ。
「……あーしはね、」
少しの間のあと、白雪姫は私にこう打ち明けた。
「本当はお姫様なんかじゃなくて、お笑いやりたいんだ」
3、りんごサワーと、きゅうりのサンドイッチ
「お笑い?」
思わず聞き返してしまった。だって、あの白雪姫が、あの snow whiteがコメディアンになりたいだなんて。
「うん。三回目の白雪姫をやってる頃らへんからテレビ普及したっしょ。小人ん家で漫才見てたんだわ。そしたら腹痛いほど笑えてね。ああ、あーしも舞台立ってウケることやりたいって思い始めてさ。で、今回で白雪姫やんの五回目っしょ?ガマンしてたけど、もうそろそろ限界なんだわ。お笑いやりたいって気持ちが止まんねーのよ」
缶チューハイを飲んで、真っ白だった白雪姫の頬は少し赤くなっていた。口は悪くても、その横顔はやはりお姫様の風格があった。
「でも来月、あの継母クソババアが魔女に扮してあーしに毒リンゴを食えと言ってくる。あ、あの毒リンゴ、マジまずいかんね。苦くて食えたもんじゃないっつーの。毒とか以前にマズ死にするわ。ハハ。ま、そんなことどうでもいいんだけど、とにかく食ったら後は王子と出会って結婚コースっしょ。そしてあーしは死ぬまで、着せ替え人形みたいに色んなドレス着せられて、操り人形みたいに生きていくの。本当にやりたいことをやれないまま……ずっとね」